作品解説 BY 池田憲章
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■第一弾
「ゴジラ」(1954)
原水爆実験により、安住の住処である海底を破壊され、古代生物の巨獣ゴジラは日本へ、東京へと上陸してきた。東京はゴジラの吐く放射能火炎によって紅蓮の炎に包まれていく……。日本映画史に残る本格SF映画の第1作。香山滋の原作の風格、本多猪四郎監督の人間ドラマ部分と円谷英二による特撮シーンの融合が見事で、伊福部昭作曲の音楽演出も実に効果的だ。モノクロの画面が少しのハンデにもならない傑作!この作品の成功を力に東宝特撮は大きく飛躍する。
「空の大怪獣ラドン」(1956)
夏の九州を舞台に、カラー映像の中で炭鉱で起こる奇怪な連続殺人。3m近い昆虫状の怪物の出現。そして大空を飛ぶ巨大モンスターのスペクタクルとスケールがぐんぐんと広がっていくストーリーテリングが抜群の怪獣映画。スピード感あふれる展開もマッハで飛ぶモンスターにぴったりだった。モノクロの闇の中で暴れるゴジラと比べて、ラドンの特撮は陽光あふれる昼間に存分に描かれる。破壊スペクタクルの魅力とは何かを見せる福岡の攻防シーン他、見せ場満載。
「地球防衛軍」(1957)
シネマスコープ、立体音響で作られた東宝SF映画第1号。地球へと潜入して、富士山のすそ野に科学要塞ミステリアン・ドームを作りあげた宇宙人ミステリアンの地球侵略と対決する地球防衛軍の科学総力戦を描く特撮スペクタクル映画。SFイラストレーター小松崎茂デザインによる円盤、宇宙ステーション、空中軍艦アルファー号、光線砲マーカライト・ファープとSFメカが続出、アニメ合成の光線描写が圧巻の特撮映像を生みだしていく。まさに劇場で見てほしい東宝特撮の代表作。
「ハワイ・マレー沖海戦」(1942)
戦前の東宝特撮を代表する戦争映画の1本。山本嘉次郎監督のドキュメンタリー・タッチの静かな人間ドラマ部分を受けて、円谷英二指揮する特撮シーンは、ハワイのパールハーバーを攻撃する日本海軍の航空部隊の映像を押さえた調子の適格なカット・ワークの設計で描きだした。二百坪のオープン・ステージに百五十坪で作られた真珠湾基地を攻撃する多彩なカメラ・アングルが必見。
「世界大戦争」(1961)
東西の米ソ対立がただ中にあった1961年、世界終末の水爆戦争を描いたスペクタクル大作。松林宗恵監督は、SF映画的なタッチよりも緊張感漂う冷戦の最前戦で偶発的におこる戦闘がいつしか両陣営の不信と不安をあおり、第三次世界大戦へと戦火が広がっていくストーリーを日本人の平凡なタクシー運転手の田村(フランキー堺)一家と対比して描きだしていく。文芸映画にも似た市井の人々の描写が光り、西垣六郎撮影監督の画面構成がすばらしい。円谷特撮の破壊エネルギー渦まく特撮も見せ場満載だ。
「妖星ゴラス」(1962)
太陽系に死が迫りつつあった。年老いた恒星が収縮して地球の4分の3ぐらいの大きさになり、地球の6千倍の質量を持つ超重力星と化したゴラスが地球衝突のコースで進入してきたのだ。地球の各国は科学力を総動員して、南極に核融合によるジェット・パイプを建造、地球の軌道を変えて、ゴラスを回避する計画に乗りだした。そのスケール感でSF映画史に残るスペクタクル映画。円谷英二特技監督の精緻なミニチュア特撮の結晶作品である。
「青島要塞爆撃命令」(1963)
第1次世界大戦、青島のドイツ軍要塞に戦いを挑む大空の冒険野郎たちの活躍を描く痛快戦争アクション。「ナバロンの要塞」を見るようなつもりで見るべし。加山雄三、夏木陽介、佐藤充がいい味を出していて、俳優陣を描く古沢憲吾監督の演出も快調の一語。「日本飛行機野郎」が夢の作品であった円谷英二特技監督は、モーリス・ファルマンの複葉機を実物大、3分の1、6分の1サイズで製作、ノリにノるカット・ワークで飛行させた。富士のすそ野に作った要塞のオープン・セットの上空をヘリコプターで空撮したラストが圧巻!
「大平洋の嵐」(1960)
東宝映画が戦後初めてカラー・ワイド画面で作りあげたオールスター・キャストの戦争映画の大作。日本海軍の真珠湾攻撃からミッドウェー海戦までをミニチュア特撮で映像化し、真珠湾攻撃のシーンのためにオープン・セットで1万平方メートルの五百分の一の真珠湾港が製作された。航空機の操演、銃の表現も一段とレベルアップし、ラジコン飛行機も使用された。合成の効果もよく、松林宗恵監督の人間ドラマ部分とのリンクもすぐれ、円谷英二の戦記特撮の代表作の1本である。
「潜水艦イ-57降伏せず」(1959)
自衛隊の潜水艦くろしお号を撮影に使用し(元は日本海軍の潜水艦だった)、水中撮影用の水槽プールにミニチュアの潜水艦を航行させて海の広がりとスリリングな水中戦の攻防をビジュアル化した戦争秘話タッチの戦記映画。モノクロなのに、合成シーン用にブルーバックのカラー撮影で特撮は撮影され、すばらしい合成イメージを作りあげた。松林宗恵監督の俳優の表情を生かすキャラ描写がもっとも成功した佳作である。
「大平洋の翼」(1963)
源田司令ひきいる343航空部隊の柴電改の空中戦を存分に見せる航空戦記映画。柴電改の編隊離陸のシーンは、大プールの水を抜き、滑走路の板を敷いて、尾部を上げた形で何十機を固定、大型トラックがワイヤーで引いて滑走路を爆走していく勇壮なシーンとなった。B29に体当たりするパイロットの主観シーンはズーム撮影がまだ不可能だったため、円谷英二家の庭にあった円谷研究所で一コマ一コマ、コマ撮りでB29へ突入していく息づまるカットを作りだしている。
「大平洋奇跡の作戦/キスカ」(1965)
大平洋戦争末期の奇跡の撤退作戦といわれたキスカ島守備隊の救出にかける海軍機動部隊のストーリーを映画化した戦記映画の傑作。円谷英二特技監督にとっても後期の代表作の1本である。日本映画技術賞の特殊技術部門を見事受賞している。霧の中を進む海軍の艦船、そして米軍の続く空襲、接触する軍艦と合成によるサスペンスはトップ・レベル。カラー撮影のブルーバック、移動マスク合成はモノクロに移されてパーフェクトの出来。丸山誠二監督の人間観、かざらない人物描写が出色の人間ドラマを生みだした。
「連合艦隊司令長官/山本五十六」(1968)
円谷英二特技監督の描く空中戦イメージの到達点を見せる円谷晩年のミニチュア特撮の精華を見せる戦記映画。SF 映画や怪獣映画しか見ない特撮ファンは、この作品のビジュアル・イメージの多彩さをぜひ知ってほしい。山本五十六役の三船敏郎は丸山演出に応えて熱演、「軍閥」や「風林火山」と三船自身も第二の円熟期に入る働き盛りだった。娯楽映画としても1級品のカラー作品だ。一式陸攻を襲うP38の空中戦は多彩な編集の技を見せてただ圧巻の出来だ。
「日本海大海戦」(1969)
円谷英二特技監督の事実上の遺作となる戦記スペクタクル映画。日本海軍とロシア海軍の大海戦を空中から撮影する得意な視点を封じて(まだ飛行機がなかった時代だからだ)大海原の高度でまとめあげた海戦映画の異色編でもあった。128分の長尺の中で特撮パートは少なくコンパクトにまとめられ、合成を駆使してクライマックスの日本海海戦もミニチュアだけではない人間ドラマ部分との融合を見せ、円谷特撮の最後の境地を思わせる名シーンを続出させた。
「宇宙大戦争」(1959)
地球を狙い、月面裏の基地から飛来するナタール遊星人の円盤群と地球のロケット戦隊が戦う東宝SF初の宇宙SF。「スターウォーズ」登場まで、カラー映像で円盤VS宇宙戦闘機が宇宙空間でドッグファイトする特撮はこの作品だけだった。月面基地の攻撃とクライマックスの宇宙戦をもりあげる伊福部昭作曲の戦闘マーチが実に印象的だ。「地球防衛軍」の姉妹編の感もあって、安達博士、白石江津子と同じ役名のキャラクターが別の俳優で登場している。
「海底軍艦」(1963)
地上侵略を狙う海底に住むムウ帝国は、第二次世界大戦後ひそかに南洋に隠れた日本海軍の神宮寺大佐(田崎潤)が建造した海底軍艦・轟天号をマークしていた。海を走り、空を飛び、地に潜るスーパー戦艦・轟天号の胸のすく特撮映像満載のメカニックSF。高島忠夫、藤山律子の若者世代と田崎潤、上原謙の戦争体験世代、ムウ帝国の小林哲子、天本英世の想いを描き分ける本多猪四郎監督の人物描写も充実している。円谷英二の巨大飛行戦艦の映像イメージが圧巻!
「美女と液体人間」(1958)
製作・田中友幸、本多猪四郎監督、円谷英二特技監督のトリオがSFスリラーの新ジャンル開拓をめざした変形人間シリーズ第1作。本多猪四郎監督は「麻薬が人間を溶かしていくようなそんなイメージが出発点にあった」と語っていた。ギラつくような非情なギャングを佐藤允が熱演、ギャングの情婦役の歌手千加子役の白川由美も好演して作品を支え続けた。特撮は役者そっくりのダミー人形を作り、エアーを抜いてしぼませ、人間が液体人間に襲われ溶けていく合成シーンを生んだ。合成が支える液体人間の空前の特撮を見逃すな!
「ガス人間第一号」(1960)
「ゴジラ」と並ぶ東宝SF映画のベスト・ワーク。本多猪四郎監督のドラマ部分がはっきりとリーダー・シップを取り、円谷英二特技監督がガス人間のワンダー映像でストーリーの要を支え続けた。初夏からむし暑い夏へと進んで行くストーリーを小泉一撮影監督、高島利雄照明監督が美しい淡いカラー設計で映像化していた。オプチカル合成によるガス人間の合成シーンは、適格なカットワークでドラマと少しも遊離しない。息をのむラストのクライマックスを見よ!
「マタンゴ」(1963)
「ガス人間第1号」と共にペシミスティックに人類を見つめる本多猪四郎監督の“大人の視線”を思わせるSF映画。「ガス人間第1号」と共に木村武の脚本が光っている。東京で遊びあきた二代目実業家の金持ちや作家、マスコミの人気学者、評判のヨットマン、歌手が嵐の海にヨットで遭難、漂流して流れついた島、そこは放射能変異で人間に寄生するキノコ、マタンゴの支配する島であった・・・という怪奇スリラーで、現代の寓話でもある。水野久美、土屋嘉雄、佐原健二、久保明、小泉博という俳優陣も熱演、怪奇の島の屈指の人間ドラマを作りあげた。
「大冒険」(1965)
クレージー・キャッツの喜劇と円谷英二特技監督の特撮をジョイントしたスーパー・コメディー特撮、それが「大冒険」だ。謎の秘密組織と警察に追われ続ける植木等は、ピアノ線で吊られて車をよけるわ、電話線にぶらさがったり、「逃げろー!!」と走り続けると東京から名古屋まで一気に走っていたりする(笑)古沢憲吾監督の演出もいたってC調で楽しい。007もまっ青の秘密基地にミサイル攻撃とスピード感満点の画面が愉快だ。
「ゼロファイター/大空戦」(1966)
黒澤明監督のチーフ助監督を長く勤めた森谷司郎が監督デビューした戦争アクション映画。加山雄三が演じる九段中尉が現代的でクール、そしてユーモアあふれる作戦家ぶりを見せ、東宝戦記物の中で異彩さを見せる作品となった。特撮とのカットワークにこだわる森谷監督に応えて、円谷英二特技監督は3分の1サイズの3mのゼロ戦ミニチュアを使い、各サイズとのコンビネーションで新鮮な映像を生んだ。敵レーダー基地を襲うクライマックスの空戦シーンが楽しめる好編。
「大盗賊」(1963)
堺の豪商呂宗助左衛門(三船敏郎)は南洋貿易にその夢を果たそうとするが、航海中に謎の黒海賊に遭遇、船を沈められてしまう。南のある国に流れついた助左衛門は、その国の王家後継者争いにまきこまれていく。現れる妖術使いの魔女(天本英世)やノン気な仙人(有島一郎)、悪宰相、美女の姫や女盗賊の冒険活劇。妖術や凧を使って城へ乗りこんだり円谷英二特技監督はオプチカル・プリンターの合成を駆使して、見事この作品は日本映画技術賞特殊技術部門を受賞する。
「白夫人の妖恋」(1955)
中国の民話をベースにした林房雄の小説から映画化されたファンタジー恋愛映画。監督は女性映画のメロドラマの巨匠だった豊田四郎。本編のドラマ部分、特撮共にフルセットで撮影され、カラー調整をしっかりと行われ、見事な色彩演出を見せた。ドラマ部分の三浦光雄撮影監督の情感あふれる山口淑子、池部良のラブ・シーンは妖しささえ映像で生みだした。白蛇の精の魔力が円谷特撮の見せ場で、寺を襲う竜巻きと洪水の迫力がすばらしい。
「乱菊物語」(1956)
谷崎潤一郎の遺作小説を原作にしたファンタスティックな文芸映画。幸せを呼ぶ小鳥のビジュアルを特撮班が手がけ、ちょっと日本映画にないムードと詩情を生みだした佳作である。東宝特撮は、他にも「日本誕生」でフルアニメーションによる白鳥のビジュアルで似たイメージを作りだしている。男性アクション映画で知られる谷口千吉監督だが、ドラマティックな中に詩情を生んで印象に残る作品となった。円谷英二特技監督が生涯の目標だった「かぐや姫」のファンタスティックな映画を夢想させる作品である。
「ゲンと不動明王」(1961)
宮口しづえの児童文学を原作に、稲垣浩監督が自ら製作も兼ねて映像化した詩情ゆたかな児童映画の傑作。同時期の「嵐」と並ぶ稲垣監督のドラマ派の代表作だ。モノクロの作品の中でブルーバック合成により不動明王役の三船敏郎が3m近くに巨大化する合成シーンが出色。母を失った寺の子供ゲンと妹イズミの哀しみがしみ通るように見る人の胸を撃つ。製作本部長の森岩雄がこれこそ東宝映画と唸った秀作である。
「加藤隼戦闘隊」(1944)
山本嘉次郎監督による戦前を代表する航空戦記映画。実機を空中撮影した日本陸軍の隼戦闘機の飛行シーンは特筆もので、円谷英二の特撮シーンとのコラボレーションがすばらしい効果を生みだしている。人物が逃げるバックで空襲が始まり、人物が爆発に飲み込まれる合成カットは移動マスク合成による高度な合成だった。加藤隊長(藤田進)の部下思いの静かな人間描写が山本嘉次郎監督の円熟を示している。
■第二弾
「ゴジラの逆襲」
海洋漁業KKの魚群探査飛行士の月岡は同僚の小林機が不時着した岩戸島へ向かい、島で戦うゴジラと巨獣アンギラスを目撃する。ゴジラ達は日本近海に出没、ついに大阪へ上陸した!完成した500坪の東宝撮影所第8、第9ステージに組んだ大阪の中ノ島や大阪城のパノラマ的な広がりが見所。航空機の操演とマットアート合成の技術が向上、効果を上げた。
「透明人間」
銀座で車に透明な人間がひかれ、遺書から日本軍が生んだ秘密部隊の透明人間が生存していることが判明した。続発する透明人間の犯罪、だが実は…という怪奇スリラー。盲目の娘をからめた日高繁明の脚本のアイデアが出色。円谷英二は撮影監督と特殊技術の両方を担当、透明人間化するマスク合成と石油タンク上の攻防シーンの特撮に腕をふるった。
「獣人雪男」
日本アルプスの奥地から下山してきたK大山岳部調査隊が語る、怪物雪男と美しい娘チカとの驚くべき物語。円谷英二は、雪男が小杉義男の山師を持ち上げ、谷へ落とす合成シーンを移動マスク合成で挑むが成功せず、小杉の写真300枚近くを切り抜き、ガラス板にはって合成撮影する奇策で完成させた。いまだ日本ではビデオ化されていない円谷特撮幻の異色作。
「大怪獣バラン」
東北の北上川上流の山奥でシベリヤにしか住まない幻の蝶が見つかり、学術調査で山に入った学者達は山の湖にひそむ怪獣バランに遭遇する。原作は秘境物が得意の作家黒沼健。村を襲うバランの怒りを描く長回し&多数のカメラ・アイの破壊スペクタクル映像の撮影が圧巻(円谷特撮ベスト・カットの一つだ)。自衛隊の追撃海上戦も見せ場が多い。
「モスラ」
卵から幼虫、繭、成虫と4段変化の見せ場が多いモスラと妖精の小美人(ザ・ピーナッツ)の歌う古関裕而作曲の音楽シーンが、カラー&ワイド画面に映える大作。東京タワーを折って、糸を吐いて繭を作り出すモスラの神秘的なムードが忘れがたい。本多監督のユーモア満点の演出と円谷特技監督のミニチュア特撮の精致さがファミリー層を喜ばせた。
「キングコング対ゴジラ」
東宝創立30周年記念映画、カラー、ワイド画面で初めてゴジラが登場。北極からゴジラが、南極からキングコングが出現、日本列島を股にかけて、暴れまくる。ゴジラの恐怖、パワーのキングコングを描ききる円谷特撮のディテール満載の特撮が出色。本多猪四郎監督の演出も絶好調で、恐怖と笑い、スリルとヒロインの美しさを結晶化した。オリジナルネガは現存せず、短縮版で上映。
「モスラ対ゴジラ」
1962年5月特撮専用第11ステージが完成、特撮セットの広さ、奥行き、高さが出せるようになり、1963年6月最新合成機オックスベリ−1900オプチカル・プリンターを導入、「マタンゴ」「モスラ対ゴジラ」から威力を発揮した。実景との合成が多いのはその挑戦だった。ゴジラに倍する大きさの成虫モスラVSゴジラの空対陸の戦いが見応え、アイデア満載!
「怪獣大戦争」
湖から出現する円盤、雷を呼んで飛来するキングギドラ、宇宙を果てしなく上昇していく円盤とグレードを上げた円谷特撮の合成シーンが必見。グレン(ニック・アダムス)とX星人波川(水野久美)の恋愛タッチと土屋嘉男演じるX星統制官の怪演と本多演出のドラマも冴える。見事、日本映画技術賞特殊技術部門を受賞した娯楽特撮映画の逸品である。
「フランケンシュタイン対地底怪獣バラゴン」
怪獣映画に新時代のリアリズムを取り戻した傑作。従来50m級の怪獣を20〜25mの大きさにし、夜間を中心に人を襲う野獣のイメージで映像化、ドラマと特撮の美術、撮影、照明、編集、合成のマッチングが素晴らしい結果を生んだ。ニック・アダムス、水野久美、高島忠男も熱演、ドラマ部分の充実が円谷特撮の多彩な映像をさらに光らせたのだ!
「サンダ対ガイラ」
今日、特撮怪獣映画を見る魅力とは何かを考える時、その解答となる作品が「サンガ対ガイラ」だ。人を襲う怪物ガイラの不気味な特撮シーン、そしてガイラを迎え撃つ自衛隊のメ−サ−殺獣光線車のL作戦の流れるようなドラマ&特撮の高揚感(伊福部昭作曲の名曲を絶品!)、本多演出、円谷演出ともに忘れられない名シーンが続出する。必見!
「キングコングの逆襲」
キングコングを襲うヘリ部隊、コングVSゴロザウルスの肉弾戦、コングVSメカニコングの攻防と抜群、空前のカット割り続出。円谷特撮のビジュアル連鎖の結晶だ。スパイSFタッチの天本英世、浜美枝らを描く本多演出も最高調だ。南洋の緑、北極基地のグレイ・エクロプロア−&メカンコングの金属色の銀と井上泰幸特撮美術監督の色彩設計も見事だ。
「怪獣総進撃」
怪獣ラドンの異変と謎のファイア−ドラゴンの出現、キラアク星人の暗躍、宇宙船SY3の活躍、怪獣決戦と軽快に事件を積み重ねていく脚本、陶沢新一の構成が光る。特撮の現場は有沢貞昌特撮監督が仕切り、円谷英二は編集と合成仕上げに専念した。マルチ的な宇宙港の空間量、怪獣の暴れるシーンのディテ−ルの工夫の数々 と有沢演出にも注目。
「日本誕生」
日本神話を題材に、稲垣浩監督が骨太の演出をひろげ、円谷英二特撮監督の描く国生みのシーンや八岐の大蛇のファンタジー・タッチ、クサナギの剣で炎をはね返す出色の合成、日本武尊(三船敏郎)の怒りを表す火山の噴火に大洪水のスペクタクル映像と高いグレードの合成が絶品!円谷特撮の代表作の一本だ。伊福部昭作曲の重厚な曲想も素晴らしい。
「極楽島物語」
日本の将兵を乗せた輸送船団が米軍の襲撃で沈没、ある島に漂着した主人公達は、島の人々との愛と夢のような日々が始まる。菊田一夫の舞台劇の映画化で、俳優陣は昼間は舞台を演じ、夜はそのまま撮影所で同じ役を撮影した。歓迎の踊り手の森繁久弥の珍芸踊りは爆笑物。船団シーンの円谷特撮は初のワイド画面のカラー特撮で舞台にも採用された。
「クレージーの怪盗ジバゴ」
円谷英二特撮監督作品だけでなく、東宝特殊技術課が合成やミニチュア撮影で作品の完成度を高めた東宝映画は数々ある。北杜夫原作によるユーモアSF「クレージーの怪盗ジバゴ」(合成・三瓶一信)はその中でも別格の傑作で、合成がギャグの切れ味をアップさせていて坪島孝の演出、植木等やハナ肇、クレージーキャッツの演技も快調の一言だ。
「大坂城物語」
東宝撮影所の小プール(「ゴジラ」の海洋シーンで使用)上にオープンフルセットで大阪城の巨大セットを作り、オープ二ングや夕景でその雄大さ、広がりをまるで実景のように撮影、大阪冬の陣の攻防、炎上を鬼の茂兵衛(三船敏郎)の目を通して描いた戦国時代劇の力作。吹き飛ぶ橋や大仏建立の合成とドラマとからむ特撮も大胆に挿入されている。
「電送人間」
遊園地のスリラーハウスで謎の殺人が起き、事件を追う小林警部(平田昭彦)と記者の桐岡(鶴田浩二)は、青白い電球に包まれたような奇怪な犯人を目撃した。関沢新一脚本の変身人間シリーズ第2作。オプチカル合成で青白く走査線が体に走る電送人間の合成イメージが圧巻。福田純監督の若々しいサスペンスあふれる編集と中丸忠雄の熱演が冴える!