石井輝男 キング・オブ・カルトの猛襲

● 作品解説 / / /

12月8日(日) 〜10日(火)

戦場のなでしこ

1959年(S34)/新東宝/カラー/79分 ○国立映画アーカイブ所蔵作品

『戦場のなでしこ』写真

©国際放映

■脚本:川内康範、石井輝男/撮影:吉田重業/美術:加藤雅俊/音楽:渡辺宙明
■出演:小畑絹子、三ツ矢歌子、大空眞弓、星輝美、城実穂、宇津井健、並木一路、鮎川浩

敗戦直後満州に取り残された従軍看護婦たちの運命を描いた作品で『ひめゆりの塔』のような悲劇路線を狙ったものだが、そこは大蔵新東宝、彼女たちを襲う悲劇もソ連兵の慰安婦に堕とされるというもの。監督お気に入りの三ツ矢歌子を筆頭に大空眞弓、瀬戸麗子、星輝美など若手女優が大挙出演。ロケの最中に会社から急かされた監督は抵抗のつもりであえて繋がらないカットを入れたが、会社はそれを直させることもなくそのまま公開してしまったという。

12月8日(日) 〜14日(土)

大悪党作戦

1966年(S41)/松竹/カラー/86分

『大悪党作戦』写真

©1966 松竹株式会社

■脚本:石井輝男/撮影:平瀬静雄/美術:森田郷平/音楽:八木正生
■出演:宍戸錠、高英男、アントニオ古賀、吉田輝雄、嵐寛寿郎、安部徹、待田京介、真理明美

松竹での二作目は競馬場の売上金強奪を狙うグループを描いた犯罪アクションで東映ギャングものに近いタッチの作品。前作に引き続き出演した吉田輝雄、真理明美以外の主要キャストは同様の三原葉子と「番外地」組、そこに高英男、アントニオ古賀の歌手組、日活から借りた宍戸錠とほぼ松竹以外の役者で占められている。初めて石井組に出演した宍戸錠はその演出に合わなかったらしくあまりその魅力が引き出されているとはいえず、監督自身も「噛まなかった」と回想している。

12月11日(水) 〜17日(火)

霧と影

1961年(S36)/ニュー東映東京/白黒/83分

『霧と影』写真

©東映

■原作:水上勉/脚本:高岩肇、石井輝男/撮影:佐藤三郎/美術:中島敏夫/音楽:木下忠司
■出演:梅宮辰夫、丹波哲郎、亀石征一郎、水上竜子、鳳八千代、安井昌二、永井智雄、柳永二郎

能登半島の崖から墜落死した教員笠原の死に疑問を持った新聞記者小宮は通信局員の坂根と共に事件前の彼の足取りを追っていくが……。水上勉による推理小説の映画化だが、石井監督は晩年同じ水上原作の『飢餓海峡』を再映画化する構想を持っていた。石井輝男と『飢餓海峡』とは意外な感じもするがこの作品を見るとその物語のテーマや演出などになるほどなと思わせるものがある。なお、冒頭に登場する海に浮かぶ水死体は助監督だった伊藤俊也監督が演じている。

12月11日(水) 〜21日(土)

親分(ボス)を倒せ ニュープリント

1963年(S38)/東映東京/白黒/87分

『親分(ボス)を倒せ』写真

©東映

■原作:マッギヴァーン/脚本:石井輝男/撮影:西川庄衛/美術:森幹男/音楽:八木正生
■出演:高倉健、三田佳子、沢本忠雄、南廣、金子信雄、杉浦直樹、根岸明美、平幹二朗、千田是也

元刑事ながら今はヤクザに身を堕としている男が彼のボスが雇っている殺し屋の顔を目撃したため命を狙われる弟を守るべく組織を裏切りボスに挑むというハードボイルドタッチのギャングアクション。ウィリアム・P・マッギヴァーンの犯罪小説『悪徳警官』の映画化作品で原作では主人公は現役警官だが映倫の横やりで元刑事に変更させられたという。また脚本時のタイトルは『親分を殺せ』であったがこちらは会社の意向で「倒せ」に変更となった。

12月15日(日) 〜21日(土)

神火101 殺しの用心棒

1966年(S41)/松竹/カラー/90分

『神火101 殺しの用心棒』写真

©1966 松竹株式会社

■原作:盧森葆/脚本:国弘威雄、石井輝男/撮影:平瀬静雄/美術:森田郷平/音楽:八木正生
■出演:竹脇無我、林翠、吉村実子、吉田輝雄、高松英郎、大木実、藤木孝、大村文武、嵐寛寿郎

松竹第三作目は香港・マカオにロケーションを敢行し偽札偽造団とそれを追う秘密警察“神火”の攻防に巻き込まれた男を描く国際犯罪アクション。主演は再び竹脇無我、主役を食うような役で吉田輝雄も出演しているが、海外ロケともなると前二作のように石井組俳優で固める訳にもいかなかったらしく「番外地」からは嵐寛寿郎のみが出演、ただしここでのアラカンはかなりの活躍を見せる。そのほかは高松英郎や吉村実子、大木実など相変わらず松竹以外の俳優の起用が多い。

12月15日(日) 〜21日(土)

異常性愛記録 ハレンチ

1969年(S44)/東映京都/カラー/89分 

『異常性愛記録 ハレンチ』写真

©東映

■脚本:石井輝男/撮影:わし尾元也/美術:鈴木孝俊/音楽:八木正生
■出演:橘ますみ、吉田輝雄、若杉英二、賀川雪絵、葵三津子、上田吉二郎、小池朝雄、林真一郎

京都のバーのマダム典子はデザイナーの吉岡を愛しており、愛人関係にある深畑と別れることを望んでいたが、異常性格者である深畑はそれを許そうとはしなかった。変態男を演じる若杉英二の怪演がその台詞や口調までとにかく強烈で圧倒的、その結果、京都のあるマダムの実話を元にしたという男女の三角関係の物語でありながら見ようによってはホラーともコメディとも取れるような奇妙奇天烈な怪作に仕上がっている。鑑賞後若杉の怪台詞がいつまでも頭に残ること必至。

12月18日(水) 〜24日(火)

殺し屋人別帳

1970年(S45)/東映京都/カラー/93分 

『殺し屋人別帳』写真

©東映

■脚本:石井輝男、掛札昌裕/撮影:古谷伸/美術:矢田精治/音楽:鏑木創
■出演:渡瀬恒彦、伊吹吾郎、吉田輝雄、佐藤允、嵐寛寿郎、小池朝雄、荒木一郎、中谷一郎

「新人」渡瀬恒彦を売り出すための企画で物語は『網走番外地 望郷篇』がベースになっている。佐藤允扮するいつも『フランシーヌの場合は』を口笛で吹きながら現れる殺し屋モンマルトルの鉄などは明らかに「望郷篇」で『七つの子』を口笛で吹いている殺し屋譲次の変奏。主役は当然渡瀬なのであるが、見せ場の殆どは新東宝時代からの盟友吉田輝雄が攫ってしまうのは会社側の意向など意に介せずお気に入りの俳優に比重をおいてしまう石井輝男らしさの現れか。

12月22日(日) 〜24日(火)

女体渦巻島

1960年(S35)/新東宝/カラー/75分 ○国立映画アーカイブ所蔵作品

『女体渦巻島』写真

©国際放映

■脚本:岡戸利秋、石井輝男/撮影:鈴木博/美術:朝生治男/音楽:渡辺宙明
■出演:吉田輝雄、三原葉子、万里昌代、星輝美、天知茂、松原緑郎、城実穂、吉田昌代、瀬戸麗子

“東洋のカサブランカ”対馬に巣食う麻薬密輸団の元に香港から一人の男が現れる。彼は密輸団のボスの愛人百合とかつて恋仲にあった……。当時新東宝が売出し中のハンサムタワーズの四人、吉田輝雄、菅原文太、寺島達夫、高宮敬二を育てるためにそれぞれに担当監督を付けることになり、それならばと石井輝男が選んだのが吉田であった。この作品以降二人は多数の作品で組み、吉田は石井輝男ワールドの顔ともいうべき存在となる。なお「女体」の読みは「じょたい」。

12月22日(日) 〜27日(金)

大脱獄

1975年(S50)/東映東京/カラー/92分 

『大脱獄』写真

©東映

■脚本:石井輝男/撮影:出先哲也/美術:藤田博/音楽:青山八郎
■出演: 高倉健、菅原文太、木の実ナナ、室田日出男、郷鍈治、山本麟一、加藤嘉、三井弘次、三谷昇

高倉健、菅原文太の二大スターを揃えたアクションもので実録版「網走番外地」といった趣の作品。当時高倉と菅原の並列での共演にはいろいろ問題もあったようで、また一時出演者として名前が挙がっていた渡哲也の病気降板などキャスティング面ではなかなか難航したようだ。石井&高倉の顔合わせはこれが最後となってしまったが、監督は晩年高倉を主役に据えた老いたギャングの物語の構想を練っており「僕はこれが撮れたら引退する」と語り、それは高倉にも伝えていた。

12月22日(日) 〜27日(金)

江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間

1969年(S44)/東映京都/カラー/99分 

『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』写真

©東映

■原作:江戸川乱歩/脚本:石井輝男、掛札昌裕/撮影:赤塚滋/美術:吉村晟/音楽:鏑木創
■出演:吉田輝雄、由美てる子、賀川雪絵、葵三津子、小畑通子、大木実、小池朝雄、土方巽

幽閉されていた精神病院から脱出した広介は記憶に残る子守唄を頼りに裏日本へと向かうが……。ヒットを続けた異常性愛路線の人気にも翳りが見え始め岡田茂から「何か変わったものはないか?」と相談された石井がこれは好機とばかりに提案したのが少年時代から愛読していた江戸川乱歩の世界だった。今やキング・オブ・カルト石井輝男の代名詞といって良い程の人気作だが、公開当時興行主からは不評を買い冷遇され成績は芳しいものではなかったという。

text by 下村健(日本映画研究家・ライター、石井輝男プロダクション)

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