『妹』
(1974年、日活、監督:藤田敏八、脚本:内田栄一、出演:秋吉久美子、林隆三)
『赤ちょうちん』に続く、秋吉久美子と藤田敏八監督のコンビの「日活フォーク歌謡」三部作第2弾。秋吉の妹キャラが全開した、元祖「萌え」映画でもある。南こうせつとかぐや姫の主題歌とは、内容的にまったく関連のない脚本に仕上がっている点も内田脚本の真骨頂。近親相姦ムード漂う兄妹関係、ミステリアスな結末など、内田栄一ワールドの要素がすべて詰まった傑作。
『バージンブルース』
(1974年、日活、監督:藤田敏八、脚本:内田栄一、出演:秋吉久美子、長門裕之)
フーテン娘(秋吉久美子)とダメな中年男(長門浩之)が西日本をあてどなくさすらう、20年早かった援助交際ロードムービー。主題歌を担当し、特別出演も果たした野坂昭如の劇中の投げやりな歌いっぷりにも70年代の空気が生々しく映し出されている。また後半に登場する「署名しないでください」というアングラ街頭演劇は、内田栄一が実際に70年代初頭に展開していたものだ。
『炎の肖像』
(1974年、日活、監督:藤田敏八+加藤彰、出演:沢田研二、秋吉久美子)
歌謡界の大スター・沢田研二を主演に迎え日本版『ロックンロール・サーカス』(ローリング・ストーンズらが出演した伝説的ロック映画)に挑んだ問題作。ジュリーが本人役で出演、虚構と現実をないまぜにしてスターの苦悩と素顔を垣間見せつつ、ライブシーンを随所に挿入、歌謡史的にも資料価値が高い。オープニング、新宿西口で「沢田研二って知ってる?」とインタビューしているのが内田栄一本人。
『魔性の夏・四谷怪談より』
(1981年、松竹、原作:鶴屋南北、監督:蜷川幸雄、出演:萩原健一、関根恵子、夏目雅子)
日本怪談の最高峰「四谷怪談」を新解釈で脚色した元祖Jホラー。お岩に関根恵子、その妹お袖に夏目雅子、伊右衛門に萩原健一。江戸の岡場所をふらつく不良たちを脇に配し、一種の青春群像劇に仕立てている。公開当時は賛否両論を巻き起こしたが、監督の蜷川幸雄が20年後に再び同じ題材に挑んだ『嗤う伊右衛門』の退屈さと比べると、内田栄一の真骨頂がよくわかる!? 同時上映は『なんとなく、クリスタル』。
『スローなブギにしてくれ』
(1981年、角川春樹事務所+東映、原作:片岡義男、監督:藤田敏八、出演:浅野温子、古尾谷雅人、山崎努)
原作キラー・内田栄一の面目躍如たる1篇。当時、オシャレ小説として学生層に人気の片岡義男の原作を、角川映画の大宣伝にのせて公開、「新しい青春映画の誕生」になるはずが、山崎努演じる不良中年を実質上の主役に設定。その大胆な解釈にプロデューサー角川春樹が大喜び。当時の大人層には評価されたが、洗練された青春世界を期待して訪れた若年観客は、山崎努のバイオレンスな演技に唖然呆然。
『赤い帽子の女』
(1982年、製作:若松プロ+ヘラルドエース、配給:日本ヘラルド映画、監督:神代辰巳、出演:永島敏行、泉谷しげる、クリスチーナ・ファン・アイク)
今回の上映作品中、最もレアな和製セクスプロイテーション(セクシャルな題材で観客の好奇心を煽るジャンル映画をこう呼ぶ)最後の一本。芥川龍之介が密かに書いていたという触れ込みのポルノ小説を原作に西ドイツでロケーションを敢行。しかし撮影の過程で脚本を改悪され、内田栄一は激怒。『黒い帽子の女』というアンチ小説まで発表して対抗した呪われた作品。おそらく今回が最後の上映になるかも。
『水のないプール』
(1982年、製作:若松プロダクション、配給:東映セントラル、監督:若松孝二、出演:内田裕也、中村れい子、MIE)
内田栄一版『タクシードライバー』にして、キング・オブ・ジャパニーズ・ロックンローラー内田裕也の代表作のひとつ。仙台で実際に起こったクロロホルム連続強姦事件をテーマに、うだつのあがらない地下鉄職員(内田裕也)が自己に目覚め、肉体を鍛え、世界に挑戦する。妻(藤田弓子)に向かって語る「町の見張りをしている……これは政治なんだ!」という名台詞は内田栄一脚本作において至高の一言であり、聞き漏らしてはいけない!
『血風ロック』
(1984年、製作:流山児祥事務所、原作・監督:流山児祥、共同脚本:流山児祥+内田栄一+高取英、出演:塩野谷正幸、宇崎竜童、有薗芳記)
小劇場演劇の世界で「異端児」と呼ばれた流山児祥が、梅川事件(大阪の三菱銀行での銀行強盗・猟銃射殺事件)を題材に初監督に挑んで見事に散った怪作。有薗芳記の「空気を読めない」ハイテンション演技やいきなり裸になって踊りだす人質に絶句すること必至。内田栄一脚本史上最もサムい『シベ超』を上回るツンドラ映画! これを最後に観る機会はまずない! でもARBの歌う主題歌「BLUE COLOR DANCER」はカッコいいぜ!
『海燕ジョーの奇跡』
(1984年、製作:三船プロ+松竹、原作:佐木隆三、監督:藤田敏八、共同脚本:神波史男+内田栄一+藤田敏八、出演:時任三郎、藤谷美和子、原田芳雄)
フィリピンと沖縄の混血児で沖縄青年ヤクザのジョー(時任三郎)は、殺人を犯し生まれ故郷のフィリピンへ逃亡する。当初は神波史男の単独脚本だったが、あまりに実録ヤクザ路線に寄り過ぎたため、後半のフィリピン逃亡編を内田栄一が担当、中盤から突如アナーキーな展開に。「野良猫ロック」魂の復活を思わせる藤田敏八のスピーディな演出、70年代的な苦すぎる結末など、再評価されるべき1作。
『きらい・じゃないよ』
(1991年、ハイライト・フィルム製作、製作・監督・脚本:内田栄一、出演:伊藤猛、伊藤清美、美香、田口トモロヲ、川中健次郎)
齢60歳にして内田栄一は初監督に挑んだ。それも何と8ミリで。東京の片隅に潜むテロリストの青年のもとへふらりと現れる少女、2人の奇妙な同居生活……まるで『妹』が15年の時を経て蘇ったような瑞々しさ。「ねり」という名の少女まで登場させ、脚本家としての原点回帰を思わせる。つかみどころのないヒロイン像は、『バージンブルース』の万引き少女や『スローなブギにしてくれ』の猫少女と異母妹なのだ。
『きらい・じゃないよ2』
(1992年、ハイライト・フィルム+インデックス・ガン・オフィス製作、製作・脚本・監督:内田栄一、出演:伊藤猛、伊藤清美、藤本あや乃、戸川純)
監督作品第2弾。『きらい・じゃないよ』の続編ではあるが、ここで映画は『妹』の結末の先に起こるべき死と幻想の街に迷い込む。主人公の男女が廃線の先にある「百年まち」を訪ね歩く展開は、『千と千尋の神隠し』の神々の世界より10年も早かった! 内田作品の本質的テーマである“妹”が浮遊感を漂わせながら、ついに内田を黄泉の国へと導いた。ロケ先は四国。内田栄一のマブダチの一人、故・金子正次の生まれ故郷の近くだった。