美しく歪んだ映像と絵画を思わせる色彩。『ルードヴィッヒ神々の黄昏』と並ぶ傑作とカンヌ国際映画祭で絶賛を浴び、最優秀脚本賞を受賞したアレクサンドル・ソクーロフ監督作品『モレク神』。
ヒトラー総統と愛人エヴァ・ブラウンの素顔に迫るこの映画は、現存する貴重な資料に基づきセット、衣装はもとより劇中料理に至るまで忠実に再現されている。
本書では映画『モレク神』の魅力とヒトラーへの新たなる考察を伝えている。
二〇世紀は科学文明の発達と民主主義が世界じゅうに浸透した、啓蒙の時代であったとされる。だが一方でそれはナショナリズムと思想の対立が血みどろの抗争を引き起こした時代でもあった。その負の遺産の中心に、アドルフ・ヒトラーがいる。 ロシアはナチスとの戦争で最も大量の犠牲者を出した国だ。だがそこに生まれたアレクサンドル・ソクーロフは、そのヒトラーもまた「ただの人間だった」と言う。『モレク神』はその人間ヒトラーをあえて描こうとする映画だ…
(イントロダクション「二〇世紀のレクイエムのために」より抜粋)