詩的映像で描く病んだヒトラー
−ソクーロフ監督の映画「モレク神」公開−
ロシアのアレクサンドル・ソクーロフ監督が、ヒトラーと愛人エバの山荘でのひとときを、独自の詩的な映像美でつづった映画「モレク神」が、東京のラ ピュタ阿佐ケ谷で上映されている。強大な権力を振るった独裁者ではなく、病んだ卑小な人間としてヒトラーが描かれている。5月下旬まで。
雲上の神殿のような山荘に側近を連れて休暇に来たヒトラーを、エバが迎える。2人きりになると、ヒトラーはベッドに潜り込み「私はがんだ」「最低の 男だ」とうめく。エバは「聴衆がいないとふ抜けになる」と冷淡に返す。
画面は動きが少なく、薄緑のもやがかかったような色調。「フィルターやガラスを使って撮影した。映画という表現手段を使っているが、自分の作品は絵 画の延長線上にあってほしいと思っている」と監督は語る。
この映画のヒトラーは、ピクニックで上機嫌に踊ったかと思うと、訪ねてきた聖職者をののしる。むら気で弱々しくどこか病的だ。
「ヒトラーは子供時代から自分に満足できず、他人への悪意を募らせていった不幸な人間だった。彼を選び、支えた人々も、恐らく不幸な人間だったんだ ろう。権力者がその座にふさわしい人間かどうか、一人一人が考える一助になれば、とこの映画をつくった」
20世紀の権力者を描く3部作の第1作にあたる。レーニンの1日を追う次作はすでに完成。最後は、終戦前後の昭和天皇に焦点を当てる。
「戦争が終わり、どんな運命が待っているかはっきりしなかった時期の苦悩を描きたい」。日本映画は長らく、近現代の天皇を描くことを避けているが、 「歴史的事件について、触れてはいけない『神聖なもの』など何ひとつない。私たちは皆、歴史について考える権利があるのです」。
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