アート・アニメーションのちいさな学校

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ノルシュテイン氏による10日間のワークショップ(2005)
「アニメーションをつくるとは何か」

1日目

ワークショップを始める前に

・ノルシュテイン氏から

まずは、すっきりした頭で、このワークショップに臨んでください。
仕事の始まりは、お互いを見つめあうことから。
仕事においては、ノルシュテイン氏も生徒も、みんないっしょである。

一人ひとりの作品を見て

・自分の作品について簡潔に語ること

作者は、自分を正当化するために、自分の作品について、必ず簡潔に語らなければならない。そして、今回ほとんどの方は語りきれていない。
プロット(筋立て)のある作品を作る訓練をしなければならない。
全体から受ける印象として、皆さんが、あまり読書をしてないこと、美術作品を見ていないことが伺える。また、現実世界を詳細に見れていない。細部を通して、感情に落ちてくる瞬間が少なく、記憶に残る作品が少なかった。

・単純なプロットや動きが重要

芸術は、非合理的なものといわれるが、作者にとっては合理的なもの(計算されたもの)でなくてはならない。
アニメーションの擬人化は、生活や人生などの経験から、息を吹き込むことができる。
まずは、単純なプロット、動きを作れるようになることが重要である。

2日目

引き続き一人ひとりの作品を見ていく

・絵コンテの重要性

芸術において作品の一つひとつには、それぞれ理由や原因があって作られている。それを補足するために、キャラクターの行為などに詳細さが必要となってくる。そのためには、丁寧に絵コンテを描くことが重要である。
皆さんの作品の多くは、自分の力量と、表現したいことの差が大き過ぎている。あまりにも描くということに集中してしまって、キャラクターの動きが不足している。力の配分、全体のコンポジションを考えるには、まず、アイデア、シナリオ、絵コンテ、この3本の柱を軸にして仕事に取り組む必要がある。そうすると、自然と未来へのコンポジションが見えてきて、キャラクターたちが動き始めるだろう。

・注意深く自分のまわりの環境を見つめる

皆さんは、自分の殻に閉じこもりがちになっている。また、外に出ることをとても怖れている。しかし、実際には、芸術家というものは、全てのものに興味を持たなくてはいけない。例えば、悲劇を悲劇として作品で描いても、この世から悲劇はなくならない。芸術家は、生きていこうと人々に思わせる前向きなものを作ることができるのだから、悲劇に目を向けるのではなく、もっと身のまわりのこと、例えば相手のことを想うこと、自然とのハーモニーを考えることなどに、眼差しを注ぎ、悲劇を客観視する必要がある。

3日目

『キツネとウサギ』から、ハーモニーを考える

・ハーモニーについて

ハーモニーとは、キャラクターを動かしたり、セリフを入れたときに、何一つ不自然なものがないこと。

・ロシア民衆絵画からシンボリックな表現を学ぶ

『キツネとウサギ』の表現は、ロシア民衆絵画から得た。『キツネとウサギ』という民話の単純さ、明解さと、民衆絵画の単純さ、明解さが一致したのだ。民衆画家は、農民だから自然とのハーモニーを理解しているため、自分の中に色のバランスができている。そのため、色のシンボリックな使い方が上手い。

・音楽の構成について

『キツネとウサギ』の音楽において、心理的な音楽を背景に流し、気分の状態を音楽コントラストで表現しようとした。キャラクターに合わせた音楽をつけ、ナレーションをする俳優にもアクセントのつけ方から気をつけさせた。
ナレーションの俳優の声と音楽は、ひとつのハーモニーにならなければならないためである。

・作品はコンフリクト(葛藤)から始まるものである

『キツネとウサギ』で言うと、キツネがウサギの家をのっとろうと思う瞬間がコンフリクトである。
こういった、小さなコンフリクトが、映画を作る上でのエレメント(要素)になっている。そして、一つひとつのエレメントによって全体ができあがってくる。

4日目

絵画から

・『目覚めまでの1秒前』において、ダリは、音を物質化し絵として表現している。この絵の中にある一つひとつのものを見ていくことによって、わたしたちは、モンタージュやリズムや構成の練習ができる。
こういった象徴的な絵を見るとき、自分に課題を与え、どのような音がするか想像することが大切。

5日目

ノルシュテイン氏、風邪のため休講。そのため課題が出される。

課題

『北斎/富嶽三十六景・御厩川岸から両国橋夕陽見』をもとに、絵コンテを描く。
日常性や現実性を盛り込んで、起承転結のあるプロットで描くこと。

6日目

『アオサギとツル』から、音のつけ方について

・音の図表を作る

まず、頭の中で全て計算する。その後にストップウオッチを使い、動きや音をつけていく。
1秒ごとに(1秒をさらに細かく分けるときもある)、キャラクターのポーズやセリフの始まりから終わりまでを計算し、また音楽のアクセントを置く場所などを記した、音の図表を作る。日本でいう、タイムシートのようなもの。この図表作りを丁寧にすることによって、時間を体感することになる。
『アオサギとツル』では、エイゼンシュテインの「垂直のモンタージュ」を軸にして音をつけた。音のライン(効果音、セリフ、バック音楽)、色のライン(色彩の変化)、映像のラインをもとに、音の図表を作っていった。

『霧の中のハリネズミ』から

・ハリネズミが迷い込んだ霧の中は、人生の断片を表している。

ハリネズミの好奇心、初めての恐怖、空想、初めてのもの(葉、ミミズク、木、カタツムリ、象らしきもの、犬など)との出会い。このように、人生には、謎めいたことがたくさんある。それは、善意があるものかもしれないし、あるいは悪意のあるものかもしれない。また、霧の中に入る前のハリネズミと、霧の中から出た後のハリネズミは違う。原作をただ単にアニメーション化したのではなく、哲学的に発展させて作った。

・てづくりの表現について

コンピューターで作られたものとは、やはり違う。手作りのものは、観客に何が起こるかわからないと感じさせられる。つまり、この物語の軸となる謎めいたことを、もっと表現できる。
撮影のプロセスの上で、道具が必要なら自分で作る。(マルチプレーンのように)

・ハーモニーについて

ハーモニーとは、周辺が反映されること。
キャラクターと、キャラクターをとりまく環境とが、どちらも突出されることなく、しかしどちらも重要性を持っているということ。
例えば、この物語では、主人公のハリネズミは感情を表すときに、顔全体が変わるのではなく、目だけが大きくなったり瞬きしたりするだけである。ハーモニーをもたせるために、顔全体で表現する必要はなかった。

7日目

課題・『北斎/富嶽三十六景・御厩川岸から両国橋夕陽見』をもとに描いた絵コンテの指導

・版画を映画的に作り直すエクササイズ

皆さんは、版画そのものをよく理解していない。単純さを怖れている印象を持った。皆さんは、何かを思いつこうとして、深みにはまってしまい、複雑化しすぎてしまった。
版画そのもののリズムを感じとり、版画を映画的に作り直すエクササイズをしてもらいたかった。
リズムは、単に、パノラマと船を動かすことと乗客たちのパーンなどで十分表せるはずだろう。
皆さんには、風景と人々を結びつけハーモニーを持たせ、版画(または絵画)を映画的な視点で見る能力が必要。

8日目

課外実習『北斎展』を観る

9日目

『話の話』から

・映画にとりくむということは、それまでの自分の人生を問われるということ。記憶や個性や経験が豊かであればあるほど、生かされるのだ。監督の仕事というのは、巨大な記憶を使うことである。
『話の話』にも、ノルシュテイン氏の生涯の一部が入っている。

・戦争、そしてしあわせな生活とは何か

たとえ、戦争が終わっても、人間は暖かく交流し合わない。単純でしあわせな生活を守っていくにはどうしたらいいのだろうか。
一人ひとりが、具体的なしあわせについては、思い浮かべられるだろう。
しあわせの概念は、所有しているものの大きさや価値ではなく、おそらくもっと簡単なものである。例えば、木々のざわめきや、新鮮な空気さえ、人をしあわせにしてくれるのだ。また、そういう細かなところから、記憶を汲み上げ、作品にとりこむのだ。

・時間を凝縮する

『話の話』に出てくる古い家は、ノルシュテイン氏の25年間住んでいた家がモデル。
日本でも伝統的に古いものを大切にしている。
では、なぜ大切にするのか。それは、時間がそのものに凝縮されているからである。
また、芸術も、時間を自分の中に凝縮し、想像して作りだされたものであり、それが絵画や音楽作品となる。

・時間の感覚

時間の感覚は非常に難しいい。より短く、中身のあるものを…は、アニメーションにはよくいわれることだ。しかし、時に、劇映画よりもアニメーションの方が、時間がゆっくりと流れるときもある。
例えば、『話の話』の中の真昼のエピソードでは、現実の動きよりも、少し早めに動かしたらひどいものになってしまった。なので、現実の動きよりも、ゆっくりとしたスピードで撮った。
この時間の感覚というものは、だんだんに養われていくもの。ノルシュテイン氏も、『話の話』を作りながら変わっていった。

・映画のポリフォニー(複数の異なる動きの声部が協和しあって進行する音楽のこと、多重奏)

ポリフォニーを作るエコーのマテリアルが生きいきしていればしているほど、永遠性が長引く。
『話の話』では、エコー(子守唄、雨の音、光、音楽的な緊張感など)を作ることから始まった。
そして、ノルシュテイン氏の幻想と現実と記録(歴史の全て)が結びつき、ポリフォニーとなった。
ポリフォニーによって、『話の話』のようなバラバラのシーンをまとまりがあるようにつなげることができたのだ。

10日目

『外套』から

・最も難しい映画表現は、なんでもないことをすること

アニメ表現において、グロテスクなキャラクターは実は作りやすいのだ。ほとんど色彩のない、しかし魅力的なキャラクターを作ることが大切。そして、たとえ主人公のグロテスクな部分を表現しなくても、主人公の人生のラインを丁寧に描いていけば、観客たちは惹きつけられるのではないか。

今の若者について

・皆さんは、自分の年齢と比例せずに思慮深くない。

内面、または音楽や美術や文学と対話したとき、もっと自由に作品を作ることができる。
絵コンテを、大切な友人に書く手紙のように、描くことが大切。