映画探偵の映画たち 失われ探し当てられた名作・怪作・珍作

■ 作品解説 / /

※適正映写速度が作品によって異なるサイレントフィルムに関して、当館では映写機の仕様上、24fpsでの上映となります。
あらかじめご了承下さい。以下に記載の上映時間も映写速度24fpsの場合です。

1月31日(日) 〜2月6日(土)

海魔陸を行く

1950年(S25)/ラジオ映画/白黒/53分

『海魔陸を行く』写真

写真提供:プラネット映画資料図書館

■監督:伊賀山正徳/原作:今村貞雄/脚本:松永六郎
■声の出演:徳川夢声

プラネット収蔵の戦後怪作の中でも極め付きの作品。蛸壺から逃げ出したタコが、陸を渡り、クモ、カマキリ、ヘビなど様々な動物たちに出会いながら、一路海を目指すという、驚くべきストーリー。ナレーションは徳川夢声が手がけており、無駄に豪華な一面もある。ドキュメンタリーの概念が曖昧だった時代ならではの牧歌的珍品といえよう。

1月31日(日) 〜2月6日(土)

サザエさん 七転八起の巻

1948年(S23)/マキノ映画/白黒/48分

『サザエさん 七転八起の巻』写真

写真提供:プラネット映画資料図書館

■監督:荒井良平/原作:長谷川町子/脚本:京都伸夫
■出演:東屋トン子、水野浩、宮城千賀子、滝沢静子、沢蘭子

言わずと知れた長谷川町子原作漫画の映画化。アニメは現在まで続く長寿作品の代表格だが、実は何度も実写映画化もされている。江利チエミ主演の東宝版が比較的有名だが、それに先立ち製作された、東屋トン子主演のマキノ映画版なるものがある。戦後風俗を取り入れたミュージカル仕立ての、奇妙な味わいの作品となっている。

2月7日(日) 〜13日(土)

義人呉鳳

1932年(S7)/台湾プロダクション/白黒/サイレント/42分 ※16mm

『義人呉鳳』写真

写真提供:プラネット映画資料図書館

■監督:安藤太郎、千葉泰樹
■出演:秋田伸一、津村博、湊明子、丘はるみ

安井氏が京都府と争奪戦を繰り広げた作品。結局負けたものの、別のコレクターからより状態の良いフィルムが入手できたというから、何が幸いするか分からない。千葉泰樹監督現存最古の作品で、台湾の首狩り禁止に奔走した清朝の役人(実在しない)を讃えるプロパガンダ。近年話題を呼んだ映画「セデック・バレ」と見比べてみるのも興味深い。

2月7日(日) 〜13日(土)

影法師捕物帖

1926-27年(S1-2)/マキノ御室/染色/サイレント/33分

『影法師捕物帖』写真

写真提供:プラネット映画資料図書館

■監督:二川文太郎/原作・脚本:壽々喜多呂九平/撮影:松浦しげる
■出演:市川右太衛門、鈴木澄子、武井龍三、中根龍太郎

阪妻の代表作「影法師」の続編。捕縛を逃れ隠れ住む影法師たちが新たな事件に巻き込まれていく。ただし阪妻が退社したため右太衛門が主演した。同時代的には受け入れられなかったようで、不完全ながらニュープリント同様の美しい染色フィルムが残された。だが現在観ると、意欲的なカメラワークや斬新なオープニングに驚かされる。

2月7日(日) 〜13日(土)

森紅作品

『ヴォルガの船唄 扇光樂』写真

写真提供:プラネット映画資料図書館

「ヴォルガの船唄 扇光樂」1932年(S7)/白黒/サイレント/3分
「旋律」1933年(S8)/白黒/サイレント/3分
「千鳥の曲」製作年不詳/白黒/サイレント/2分

東の荻野茂二に対し西の森紅と並び称された、戦前関西個人映画の第一人者の作品群。これもまた、プラネット・安井氏のコレクションから発見された。荻野よりゆるいが、おおらかな楽しさに満ちた作風が特徴だ。今回は、SPレコードにシンクロさせて抽象図形が動く「ヴォルガの船歌 扇光樂」のほか「旋律」「千鳥の曲」とアニメ三本を紹介する。

2月14日(日) 〜16日(火)

海援隊快擧

1933年(S8)/朝日映畫聯盟/白黒/サイレント/41分 ◯東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品

■監督・脚本:志波西果/撮影:大井幸三 ■出演:月形龍之介、結城重三郎、櫻井京子

ゴス調査では、様々な思いがけない珍品が見つかっているが、これは中でもレア中のレアというべき一本であろう。なにしろ、わずか二本しか製作していない朝日映画連盟作品の一本が、ほぼ完全な形で見つかったのだから驚くほかない。現在では忘れ去られた名匠・志波西果の監督作で、残存が少ない月形龍之介の主演作という点でも貴重。

2月14日(日) 〜16日(火)

天保泥絵草紙

1928年(S3)/帝国キネマ/白黒/サイレント/44分 ◯東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品

■監督:山下秀一/脚本:上島量/撮影:塚越成治 ■出演:明石緑郎、阪東豊昇、中村翫曉、尾上松二郎

三角関係と血縁の秘密に、河内山宗俊が絡む。これもゴスで発見された貴重な帝キネ作品。当時の帝キネは設定を使い回しにして何度も映画化する傾向があり、「金子市之丞」(24)と区別がつかず、同定作業は難航した。最終的に決め手となったのは、なんと当時の「キネマ旬報」に掲載された写真で松枝鶴子が着ていた着物の柄だったという。

2月17日(水) 〜20日(土) 、24日(水) 〜27日(土)

僕らの弟

1933年(S8)/日活太秦/白黒/サイレント/42分 ※16mm

『僕らの弟』写真

写真提供:おもちゃ映画ミュージアム ©日活

■監督:春原政久/原作・脚本:依田義賢/撮影:内田耕平
■出演:中村英雄、西村五男、村山行代、佐藤圓治、須藤恒子

「三等重役」春原政久監督のデビュー作で、名匠・依田義賢の脚本作品。京都で87年に発見されたものの関心が集まらず、埋もれていた。後に太田教授が再調査を重ねて映画史的価値を固め、自ら修復にも携わった。依田のサイレント期唯一の残存作品であり、セリフ字幕の美しさは特筆に値し、実話美談の映画化にとどまらない詩情を感じさせる。

2月21日(日) 〜23日(火)

土[最長版]

1939年(S14)/日活多摩川/白黒/117分 ※独語字幕付 ◯東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品

『土[最長版]』写真

■監督:内田吐夢/脚本:八木隆一郎、北村勉
■出演:小杉勇、風見章子、どんぐり坊や、山本嘉一、村田知栄子

長塚節原作を映画化した、内田吐夢の戦前代表作のひとつ。ただし戦後長く上映されてきたバージョンは冒頭と巻末が欠落した無残な不完全版。ここにゴスで冒頭部分が発見され、最長版が製作された。なお結末を欠くとはいえ、物語の膨らみは格段に増した。にもかかわらず不思議に上映の機会は少ない。これもまた貴重な一本。

text by 高槻真樹

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