8月10日(日)〜12日(火)

五郎正宗孝子伝

1915年(T4)/天活/白黒/無声/36分 ○東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品

『五郎正宗孝子伝』写真

■監督:吉野二郎/撮影:枝正義郎
■出演:澤村四郎五郎、市川莚十郎、中村吉三郎

忍術映画が盛んに作られた日本映画初期の非常に貴重な一作。尾上松之助と覇を競った澤村四郎五郎の主演で、円谷英二の師・枝正義郎の初期の撮影作品。刀工五郎正宗が父と再会するまでを描く。特撮は終盤に少しあるだけだが、洗練されたカメラワークに驚かされる。工程が未分化な時代で、枝正義郎監督作品とするのが妥当との見方もある。

8月10日(日)〜12日(火)

國士無双

1932年(S7)/片岡千惠藏プロダクション/白黒/無声
○東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品 16分/○マツダ映画社所蔵作品 8分 ※16mm

『國士無双』写真

写真提供:マツダ映画社

■監督:伊丹万作/原作・脚本:伊勢野重任/撮影:石本秀雄
■出演:片岡千惠藏、瀬川路三郎、渥美秀一郎、伴淳三郎、山田五十鈴

伊丹万作監督の伝説のノンセンス時代劇。正体不明の男が剣豪の偽者に仕立てられ、なぜか本物を倒してしまう。全編不条理な展開の連続で、「メンタルテスト」なる字幕も登場する。完全な状態では残っていないため、今回は二種類の断片を連続上映し、現存最長版に近づける試みを行う。マツダ版には、FC版にはない、二度目の対決シーンがある。

8月13日(水)〜16日(土)、8月20日(水)〜23日(土)

豪傑児雷也

1921年(T10)/日活大将軍/白黒/無声/14分 ※16mm

『豪傑児雷也』写真

写真提供:マツダ映画社

■監督:牧野省三
■出演:尾上松之助、市川壽美之丞、片岡長正、大谷鬼若、片岡松燕

一世を風靡した尾上松之助による映画初期忍術映画の代表作。ガマに変身し、雲に乗り空を飛ぶなど、現在に続く特撮技術とSF的想像力の源泉が詰め込まれている。不完全な断片だが、当時の熱気をうかがい知ることができる貴重な一作。固定カメラに書き割りの背景と演劇的な演出方法は評論家層の批判の的になったが今も魅力は尽きない。

8月13日(水)〜16日(土)、8月20日(水)〜23日(土)

渋川伴五郎

1922年(T11)/日活大将軍/白黒/無声/65分 ※16mm

『渋川伴五郎』写真

写真提供:マツダ映画社

■監督:築山光吉/撮影:松村清太郎
■出演:尾上松之助、嵐瑠珀、片岡松燕、尾上松三郎、中村仙之助

松之助の忍術映画のうち、ほぼ全編が残された唯一の作品。力自慢の柔術家・渋川伴五郎が土蜘蛛退治に挑む。歌舞伎の様式美をうまく生かしながら、特撮を駆使した対決場面は迫力満点。序盤の相撲、クライマックスの剣戟とめまぐるしく変わるアクションの連続はサービス精神満点で、当時喝采を受けたのも当然と納得できる。

8月17日(日)〜19日(火)

忍術 戸隠八剣士

1937年(S12)/極東キネマ/白黒/58分 ○東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品

『忍術 戸隠八剣士』写真

写真提供:永田哲朗

■監督:山口哲平/原作:坂間清彦/脚本:夛陀羅三平/撮影:松本靜八
■出演:雲井龍之介、市川壽三郎、綾小路絃三郎、靜田二三夫、五十鈴桂子

ロボット時代劇などインパクトの強いアイデアの連打で存在感を見せた戦前B級映画の雄・極東キネマの代表作。江戸初期、幕府転覆を目論む福島正則の陰謀を阻止するべく、戸隠八剣士が立ち上がる。松之助時代の素朴な特撮を、凝りに凝った編集と洗練された殺陣で一変させた。全編を埋め尽くす奇想は、これぞ極東という魅力に満ちている。

8月17日(日)〜19日(火)

權三助十 天狗退治

1938年(S13)/極東キネマ/白黒/25分 ○東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品

『權三助十 天狗退治』写真

写真提供:永田哲朗

■監督:山口哲平
■出演:綾小路絃三郎、伊勢原浩太郎

フィルムセンターに残された数少ない極東作品のひとつ。何度も映画化されている講談ネタ・駕籠かき権三と助十コンビの弥次喜多もの。強盗団の旅芝居に、知らずに加わった二人が巻き起こすドタバタを奇想たっぷりに描く。「戦前日本SF映画創世記」では取り上げていないが、ほとんど上映の形跡もないため、今回あえて選んでみた。

8月24日(日)〜26日(火)

怪電波の戦慄 第二篇 透明人間篇

1939年(S14)/大都映画/白黒/34分 ○東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品

『怪電波の戦慄 第二篇 透明人間篇』写真

■監督:山内俊英/脚本:大井利與/撮影:下村晴夫
■出演:水原洋一、水島道太郎、藤間林太郎、夢路妙子、四方利男

洒脱なパロディ的演出でB級映画の王者として君臨した大都映画による、戦前初の商業SF映画「怪電波殺人光線」のトーキーリメイク版。謎のロボットを巡り敵味方入り乱れた争奪戦が展開される。現存するのは二部作の後篇のみだが、主人公ロボット・人間タンクの存在感は十分楽しめる。なお「透明人間」というが、透明になるのは人間タンクである。

8月24日(日)〜26日(火)

弥次喜多 岡崎猫退治

1937年(S12)/大都映画/白黒/無声/14分 ※16mm

『弥次喜多 岡崎猫退治』写真

写真提供:マツダ映画社

■監督・原作・脚本:吉村操/撮影:広川朝次郎
■出演:大岡怪童、山吹徳二郎、大山デブ子、飯塚小三郎、谷定子

大都映画のパロディ路線の魅力が大いに感じられる一作。もともと二巻しかなく、添え物の短編らしいが、着ぐるみの化け猫の安っぽさを逆手に取ったシュールな展開がすばらしい。ヒロインの大山デブ子は、寺山修司が自作劇「大山デブコの犯罪」でオマージュを捧げた、大都随一の喜劇女優。巨漢・大岡怪童とのコンビで人気があった。

8月24日(日)〜26日(火)

河童大合戦

1939年(S14)/極東キネマ/白黒/5分 ○東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品

『河童大合戦』写真

写真提供:永田哲朗

■監督:米沢正夫/撮影:上村貞夫
■出演:雲井龍之介、林長二郎、綾小路絃三郎、片岡左衛門、小川重四郎

極東が得意とした怪人・化物路線の集大成というべき大作で、人間に変身する能力を持つ河童一味と正義の剣士が対決する。全編大量の河童が登場し、忍術と剣戟が入り乱れる。残念ながら現存するのはロシアのゴス・フィルモフォンドで発見された5分の断片にすぎないが、多数のショットが含まれ、極東らしいインパクトの片鱗をうかがうことができる。

texy by 高槻真樹