8月20日(日)〜22日(火)

限りなき前進

1937年(S12)/日活多摩川/白黒/78分 
○東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品

『限りなき前進』写真

©日活

■監督:内田吐夢/原作:小津安二郎/脚本:八木保太郎/撮影:碧川道夫/美術:堀保治/音楽:山田栄一
■出演:小杉勇、江川宇礼雄、瀧花久子、片山明彦

誠実で小心な老サラリーマンがマイホーム完成の目前、インフレや定年制導入で夢が崩壊し、次第に正気を失ってゆく姿を描いた、日本映画史上最高傑作の一本。小津、八木、内田の天才三人がスタッフに結集した。発狂する父とは対照的に、娘を演じた轟夕起子の健康的な明るい魅力には言葉も出ない。今回の特集上映中、最も古い轟の出演作。

8月23日(水)〜26日(土)/30日(水)〜9月2日(土)

爆音

1939年(S14)/日活多摩川/白黒/84分 ※16mm

『爆音』写真

©日活

■監督:田坂具隆/原作・脚色:伊藤章三/撮影:伊佐山三郎、気賀靖吾、相坂操一/美術:梶芳朗/音楽:中川栄三
■出演:小杉勇、吉田一子、片山明彦、花柳小菊

村民の献金で作られた戦闘機が、お披露目で故郷の上空を飛行する!大喜びの村長は、このニュースを村中に伝えて回るのだった。戦意高揚映画ながら、平和な田舎の善良な人々の姿を、田坂監督がヒューマンに描く。轟夕起子は、上品だがお転婆な一面もある村長の娘を好演。轟の生地の良さが存分に発揮された田園抒情編。

8月27日(日)〜29日(火)

暢気眼鏡[不完全]

1940年(S15)/日活多摩川/白黒/29分 
○東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品

『暢気眼鏡』写真

©日活

■監督:島耕二/原作:尾崎一雄/脚本:館岡謙之助、北村勉/撮影:相坂操一/美術:今井高一/音楽:杉原泰蔵
■出演:杉狂児、山田治子、星ひかる

貧乏作家とその妻の愛情深き日々を描いた、島耕二監督の最高傑作。杉狂児扮する売れない作家を支えるのは、天然キャラの妻・轟夕起子。置き場所も考えず風呂桶を買い込むなど、ユーモア満点の大活躍。こういう役を演じたら、轟の右に出る者はいない。オリジナル77分のうち現存するのはわずか29分だが、見ているだけで幸せになれる名作中の名作。

8月27日(日)〜29日(火)

第五列の恐怖

1942年(S17)/日活多摩川/白黒/64分 
○東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品

『第五列の恐怖』写真

©日活

■監督:山本弘之/原作・脚本:北村勉/撮影:内納滸/美術:仲美喜雄/音楽:飯田景應
■出演:中田弘二、永田靖、見明凡太郎、伊沢一郎

第五列(=スパイ)への警戒を国民に呼びかけるため製作された戦争映画。日本で新開発された無音発動機をめぐり、轟夕起子扮する女スパイ・YZ七号が破壊活動を計画。それを阻止するため憲兵隊は必死の捜査に乗り出すのだった…。轟が初の悪役に挑戦した異色サスペンス。めったに上映されない映画で、今回の特集上映の超目玉作品。

9月3日(日)、5日(火)〜9日(土)

才女気質

1959年(S34)/日活/白黒/87分

『才女気質』写真

©日活

■監督:中平康/原作:田口竹男/脚本:新藤兼人/撮影:山崎善弘/美術:千葉一彦/音楽:黛敏郎
■出演:大坂志郎、長門裕之、吉行和子、中原早苗、葉山良二

京都の表具屋を舞台に、夫を尻に敷くシッカリ者の女房・轟夕起子が、一家の繁栄を願いつつも、強情な性格が原因でトラブル続出。息子夫婦たちと和解なるか!?和服に草履といういでたちで、京の町をシャカシャカ歩き回る轟は、喜劇女優としての真価を発揮した。当時、名作を連打していた中平康監督にとっても、最高傑作の一本である。

9月10日(日)〜12日(火)

ハナ子さん

1943年(S18)/東宝映画/白黒/71分 
○東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品

『ハナ子さん』写真

©TOHO CO.,LTD.

■監督:マキノ正博/原作:杉浦幸雄/脚本:山崎謙太、小森静男/撮影:木塚誠一/美術:北川恵司/音楽:鈴木静一
■出演:灰田勝彦、山本礼三郎、山根寿子、高峰秀子、英百合子

杉浦幸雄の人気漫画の映画化。誰からも愛されるハナ子さん一家が、隣組の人々と協力しながら銃後の生活を守るという、戦時下のミュージカル映画。戦況が悪化していた当時、本作は観客から絶大な支持を受け、轟が歌う主題歌「お使いは自転車に乗って」は今なお歌いつがれている。夫が出征するラストで、轟がかぶるお多福の面が涙を誘う。

9月13日(水)〜16日(土)

春秋一刀流

1939年(S14)/日活京都/白黒/74分 ※16mm

『春秋一刀流』写真

©日活

■監督・原作・脚本:丸根賛太郎/撮影:谷本精史/美術:鈴木孝俊/音楽:高橋半
■出演:片岡千恵蔵、澤村國太郎、志村喬、原健作、河部五郎、香川良介、市川小文治

講談などで有名な「天保水滸伝」を映画化。凄腕の浪人・平手造酒と二人の仲間が、新しい生活を夢見るも、用心棒稼業の中で一人また一人と命を落としてゆく。丸根賛太郎の演出が冴える傑作時代劇。轟夕起子は映画デビュー作『宮本武蔵』での初共演以来、千恵蔵とは名コンビが続いた。本作でも彼の恋人役で可憐な姿を披露している。

text by 山口博哉(映画史家)

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