撮影監督 岡崎宏三の軌跡

 カメラマンで映画をみることがおありだろうか?俳優や監督で映画を選ぶことはあっても「そのカメラマンの映画がみたい」と思うことはなかなかないのではないか?「はじめてのロケ中に二・二六事件が勃発して赤坂の自宅に帰れなかった」カメラマンがいまだに現役の映画人である、から凄いのではない。岡崎宏三の撮影した作品が面白いのである。強靱な肉体と驚異的な記憶力、そして衰えを知らない感性と探究心。この才能をもう一度みなおしていただきたい。「おれは専門店じゃない。なんでもそろうスーパーマーケット」と本人がいうように、新派調の劇映画からスタートしてドキュメンタリー、アクション、喜劇、ミュージカル、時代劇、ドラマと、そのフィルモグラフィは多彩なジャンルにおよぶ。「モロッコ」「嘆きの天使」のジョセフ・フォン・スタンバーグとの出会いが撮影監督としてのキャリアの革命になったこと。その経歴からもこのカメラマンのユニークさがうかがえよう。今年、新作の準備中に亡くなった名コンビの照明技師、下村一夫の仕事もあわせてご覧いただきたい。「いのちぼうにふろう」、「華麗なる一族」の、あのまばゆい光と影は岡崎、下村コンビの傑作である。 「このカメラマンの映画を」みに、劇場にぜひいらしていただきたい。

解説中の「」内は、2003年7月29日に録音した岡崎宏三の作品コメントになります。詳細はパンフレットをご覧下さい。

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スケジュール
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岡崎宏三
下村一夫


狼火は上海に揚る  1944年 大映=中華電影 65分 白黒
■製作:永田雅一/監督:稲垣浩/演出:岳楓、胡心霊/脚本:八尋不ニ/撮影監督:青島順一郎/撮影助手:黄紹芥、高橋武則、岡崎宏三/美術:角井平吉 ■出演:阪東妻三郎、月形龍之介、石黒達也


「戦争の真っ最中の上海ロケだが、同じ映画人として日中スタッフが協力しあった」
岡崎は当時すでに一本立ちのカメラマンだったが師・青島順一郎の求めに応じ助手として参加。幕末、動乱の上海に渡った高杉晋作ら志士たち。そこで見たのは、欧米の横暴とそれに抵抗する民衆の姿だった。中国題名「春江遺恨」。第一巻目が欠落している。

口からでまかせ  1958年 宝塚映画 101分 白黒 東宝スコープ
■製作:滝村和男/監督:内川清一郎/脚本:菊島隆三/美術:近藤司/録音:矢野口文雄 ■出演:森繁久彌、清川虹子、上田吉二郎、津島恵子、淡路恵子、藤間紫


「内川さんて監督は熱血でね、防音ステージで撮ってても外まで声が聞こえる」
森繁扮する外車の販売員が政治家(上田吉二郎)のもとへ車を陸送するまでのロードムービー。撮影はオールロケで行われた。岡崎いわく「画もでまかせだね」。

野良猫  1958年 宝塚映画 92分 白黒 東宝スコープ
■製作:滝村和男/監督:木村恵吾/脚本:木村恵吾、藤本義一、倉田順介/原作:茂木草介/美術:近藤司/照明:下村一夫 ■出演:森繁久彌、乙羽信子、田崎潤、山茶花究、ミヤコ蝶々、南都雄二


「ネチッこい監督。もう二、三本一緒にやりたかった。好きな一本」
いわゆる風俗映画というジャンルで才を放った木村恵吾監督が宝塚映画で森繁、乙羽を受けてとりあげた一品。行きあたりばったりでふらふら暮らす一人の男と、一度もいい男に巡り会わない不幸な女が出会い過ごす一日の話。

爆笑嬢はん日記  1960年 宝塚映画 83分 白黒 東宝スコープ
■製作:杉原貞雄/監督:竹前重吉/脚本:蓮池義雄、藤本義一/美術:近藤司/照明:下村一夫/録音:中川浩一 ■出演:佐原健二、森川信、柳川慶子、浜美枝、高島忠夫、神戸一郎


「監督の竹前ちゃんは宝塚映画の名助監督で気心もよく知った仲間」
豊田四郎、小津安二郎等の著名な監督に付き名助監督として腕を振った竹前重吉が友人岡崎宏三と組んで撮った喜劇映画。大坂の薬問屋の嬢はんと青年番頭とのラブコメディー。それを取り巻く喜劇人のドタバタが爆笑もの。

岡崎宏三 ドキュメンタリー作品集
「美の誕生」(48)「漁る人々」(49)「食べる」
戦後しばらく、岡崎は劇映画を離れニュース映画のカメラマンとして様々な作品を撮影、あるときは監督も兼任している。藤沢の女学生たちが出演したデンマーク体操の紹介映画「美の誕生」、GHQの指導で製作された「漁る人々」、加えて、味の素の企業PR映画「食べる」と、岡崎が劇映画の撮影の合間にまわした八ミリのメイキング映像も上映する。(全作品ビデオ上映)

グラマ島の誘惑  1959年 東京映画 106分 カラー 東宝スコープ
■製作:滝村和男、佐藤一郎/監督、脚本:川島雄三/原作:飯沢匡/美術:小島基司/録音:酒井栄三/照明:今泉千仭 ■出演:森繁久彌、フランキー堺、三橋達也、桂小金治、浪花千栄子、轟夕起子


「正月映画なのに東宝始まって以来の不入りだった。早すぎたね」
南の島に漂着した軍人貴族を演ずる森繁、フランキーらと原住民が繰り広げるドタバタ喜劇。島を極彩色に染めた川島、岡崎コンビの悪ノリは当時全く理解されなかった。ストーリーの原点は「アナタハン」である。

花影  1961年 東京映画 99分 カラー シネマスコープ
■製作:佐藤一郎、椎野英之/監督:川島雄三/脚本:菊島隆三/原作:大岡昇平/美術:小島基司/録音:長岡憲治 照明:比留川大助 ■出演:池内淳子、佐野周二、池部良、高島忠夫、有島一郎


「『花影』調とでも言うような不思議な画調を狙った」
喜劇が多かった川島、岡崎コンビでは珍しいシリアスな秀作。実在の銀座のホステスをモデルに、男に献身的につくしては捨てられる女の短い一生を描く。川島のドライな一面がうかがえる。初主演の池内淳子の暗い美貌が美しい。

青べか物語  1962年 東京映画 101分 カラー 東宝スコープ
■製作:佐藤一郎、椎野英之/監督:川島雄三/脚本:新藤兼人/原作:山本周五郎/美術:小島基司/録音:原島俊男/照明:榊原庸介■出演:森繁久彌、東野英治郎、南弘子、丹阿弥谷津子、左幸子


「移動は半日がかり。撮影は雨期。苦労した作品ほど気に入っている」
「印象派の絵をつかんでくれ」という監督の要望に、くすんだ色調の天然色で架空の街「浦粕」を作り上げた。創作に疲れた森繁扮する作家先生がそこでみたのは…。川島、岡崎コンビ充実の一本。